回復期リハビリテーションとは
ほとんどの患者さんにとって初めて経験する回復期リハビリテーション。
回復期リハビリテーション病院、回復期リハビリテーション病棟とは、救急等で運ばれた先の病院(急性期病院)で初期治療を受け、命の危険は去ったけれども、活動の障害が残り、在宅・社会復帰がそのままでは難しい患者さんが、急性期病院から転院・転棟し、集中的にリハビリテーションを行うために入院する病院及び病棟です。東京湾岸リハビリテーション病院は、回復期リハビリテーション専門のリハビリテーション病院です。
患者さんの活動の障害は、その種類も部位も重症度もさまざまですが、完全に回復するのはまれで、自宅・社会復帰を目指すには、その障害がある中での活動を学ぶ必要があります。つまり回復期のリハビリテーションとは、制約がある中での活動=新しくスポーツを習得するようなものです。やったことのないスポーツを決められた期間で習得しなければならないとき、皆さんだったらまずどうするでしょうか?そのスポーツのルールもわからないので、まずはコーチのところに行きますよね。それがリハビリテーション科医や療法士、リハビリテーションナースなど、回復期リハビリテーション病院にいるスタッフです。
スポーツの習得や上達如何は自分に合った正しい練習とその練習量にかかってきますので、みなさんはコーチに教えられながら、数週間〜数ヶ月、強化合宿を行います。このように、急性期病院と比較すると回復期リハビリテーション病院の入院は比較的長期間になります。長期間の入院で毎日多くの練習量をこなせるよう、患者さんのモチベーションが下がらないようにする必要があります。息抜きも大事ですが、正しい練習を指導することも含めてやはりそこはコーチや監督の腕が大事なところです。次項ではその監督、リハビリテーション科医について解説します。
リハビリテーション科専門医のチカラ
リハビリテーション科とは
リハビリテーション科専門医を語るには、まず「リハビリテーションとは何か」から語る必要があります。
リハビリテーション、というと何か運動をする、というイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、リハビリテーション科は活動の障害を治療する科です。歩く障害、手の器用さの障害、飲み込みの障害、集中力の障害などなど、これらは「病気」ではなく「活動の障害」です。活動の障害はあらゆる病気・怪我で生じます。リハビリテーション科は活動の障害があれば、病気を選ばず治療します。つまり、頭のてっぺんからつま先まで、どんな病気でも活動の障害を診る、ということです。脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷、骨関節疾患、関節リウマチ、四肢の切断、神経・筋疾患、脳性麻痺、小児神経疾患、呼吸器・循環器疾患、熱傷、がん(骨転移、リンパ浮腫などを含む)、などなど枚挙に暇がありません。
残念ながら、活動の障害をパッと良くする魔法の薬はありません。患者さんご本人が練習をすることで生活を良くしていくしかないのですが、リハビリ科はチームを組んで、一人ひとりの人の手でこれをお手伝いします。リハビリチームには色々な職種がいます。医師、看護師、リハビリテーションを専門とする療法士だけがチームの構成員と思われがちですが、義肢装具士、社会福祉士、薬剤師、栄養士そして在宅での生活やリハビリテーションに関わる福祉の職員など全ての人々が、さまざまな場面、そして時期に、必要に応じてチームを構成します。また、重要なポイントとして、ご本人・ご家族がチームの中心にいるという点があります。リハビリテーション科では、ご本人やご家族の能動的で積極的な関わりがないと治療が成功しません。チームのなかで主体的な役割を担って頂く必要があります。
リハビリテーション科専門医がいるということ
当院には「リハビリテーション科専門医」が7名、資格取得予定者を含めると常勤のリハビリテーション科医師が11名働いています。(2019年10月現在)リハビリテーション科専門医は2018年現在2500人しかいませんが、日本全国でみても、一つの回復期リハビリテーション病院にこれ程多くの専門医が勤務している施設は数える程もありません。では「リハビリテーション科医師がいること」とはどういうことなのでしょうか。
リハビリテーション科は活動の障害を治療すると書きましたが、リハビリテーション科医師が活動を「診る」ということを端的に表すと、例えばふと人が歩いているところを見ただけで、その人が「どういった病気」でそれによる「どういった障害」があって「どのくらいの期間」「どんな治療・練習」をすれば「どのように歩き方を良くできる」ということをおおよそ判断できるのがリハビリテーション科医師です。
また、リハビリテーション科は「活動の障害を治療するということ」は、リハビリテーション科医師には「多くの疾患とそれが起こす活動の障害の知識」がなければなりません。そして診察所見に基づき、障害の予後を予測し、現実的に患者さんの目標を設定して、どの職種が何をやるべきで、何をやってはいけないのか、というプランを作り、チームで共有し、治療を開始します。
例えばスポーツでは対戦相手を分析し、勝つための計画を立て、自チームのプレイヤーが最高の結果を生むように指示を出し、常に全体の動きと試合状況を把握しながら新しく指示を出していく…リハビリテーション科医師はチームの監督・指揮者の立場を担います。活動の障害のことは分からないからと、リハビリテーションプランを他の医療スタッフに丸投げしているようでは、リハビリテーション科医師とは言えません。さらに、リハビリテーション科医師はチームの育成も行います。理学療法士などの療法士含めた医療スタッフに論理的な活動の診かた、考え方、他職種との連携方法、医学知識などを教育するのも監督たるリハビリテーション科医師の重要な仕事です。
リハビリテーション科医師は別ページで述べるように、各種画像検査、筋電図・神経伝導検査、歩行分析、嚥下造影、嚥下内視鏡、膀胱機能検査などの医学的診断法も駆使します。また、診断だけでなく直接治療も行います。主治医として一般的な内科管理や障害を治療・緩和する投薬を行いながら、ボツリヌス療法、トリガーポイント注射などなど、医師しか行うことのできない手技で患者さんの活動を治療し、リハビリを組み合わせ、最大の効果が出るようにします。
なお、当院では、リハビリテーション科医師としての正統な教育体制を整えています。患者さんをただ多く診るだけでは最適解を出すのは困難で、より良い方法を判断できるようにはなりません。全国的にも少ないリハビリテーション科専門医の中から、さらに質の高いリハビリテーション科専門医と一緒に働いて、それを吸収することが重要と考えております。そのためにも大学病院のリハビリテーション医学教室と連携し、リハビリテーション科医師の教育にも力を入れています。
リハビリテーションの時間以外も積極的に活動してもらう
当院の回復期リハビリテーションは圧倒的な患者さんの活動量・運動量を誇ります。
リハビリテーションはストレッチ主体、リハビリテーションの時間以外はベッドで寝ている…よく見かける光景ではありますが、われわれはこれを良しとしません。動けば動くほど良くなるのであれば、リハビリテーションの時間以外も積極的に活動して頂きます。
朝は必ずパジャマから着替える。担当看護師と歩く練習をする時間を作る。できるようになった方は自主トレーニング。7時〜21時で家族と面会でき、ご家族への指導が終われば一緒に歩いて頂く。どうしても空いてしまう時間には院内デイケアに出かけてもらう。15時過ぎからは病棟ごとに患者さんが集まって毎日100回の立ち上がり練習。食事はその階のダイニングルームまで来てもらい、皆さんで召し上がる。こういった院内の取り組みは、病み上がりでどこまで運動負荷をかけて良いのか、専門的な知識を持っているリハビリテーション科医師がリスクも含めて全てをマネージメントしているからこそできることです。
リハビリテーション科医師の理想の病院を目指して~モチベーションを保つための様々な創意工夫~
当院は設計段階より、理想の回復期リハビリテーションを実現することを目的として、リハビリテーション科専門医と米国の設計士とが協力してデザインされました。長期の入院となればやはり病棟生活にも飽きてしまいがちですが、リハビリテーションの本質が患者さん主体である以上、モチベーションを保って頂くために、良い意味で病院らしくなく、ホテルのような内装かつリハビリテーションを行いやすい空間を実現しています。また内装にとどまらず、5階には患者さんが使うことのできるカフェテリアを設置し、ティータイムの他にも土曜日はご家族とランチを楽しむこともできるように致しました。
設備面以外にも、七夕・クリスマスを始めとする四季の装飾、谷津バラ園への遠足、食事も暦に応じて毎月イベント食(チキンや年越しそば、おせち、節分の鰯など)をご用意し、工夫を行っています。モチベーション面だけでなく、認知機能に刺激を入れるという点でも季節を感じることができた方が良いという面もございます。1階ホールで行われる定期コンサートは、海外からトッププロを招くこともあれば、近隣の高等学校吹奏楽部の皆様に演奏して頂くこともあります。また入院中に誕生日を迎えられた方には素敵な演出を用意している他、基礎疾患が許せば特別食を通年で提供できるなど、「こういう病院だったらいいな」というリハビリテーション科医師の理想を実装していく体制を整えております。